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『老人と狩りをしない猟犬物語』|感想・レビュー - 読書メーター

 

狩りをしない猟犬ときいて、どのような犬を想像しますか。

きっと、心優しいとか、気弱で獲物を倒せないとか、そういう類の犬をイメージすると思います。

半分当たっています。

この物語に出てくる猟犬、隼(はやぶさ)さんは、

とても優しい犬ですが、戦闘力がカンストしています。

狩りをしないというのは、文字通り猟師に付いて「狩り」をしないだけであって、戦うこと、殺し自体は躊躇なく行います。

そのため、隼さんの闘いは、大抵、獲物とのタイマンになります。

(まれに、隼さん 対 多数の時もある。もちろん、彼は圧勝します。)

 

猟師である老人は、家族や1代目の猟犬を熊に殺され、暗澹たる日々の中で隼さんを拾います。隼さんの突出した運動能力に2代目としての希望を見出しますが、獲物である鳥やキツネを殺さないばかりか、遊び相手として仲良くしようとする隼さんの気性に落胆し、ダメ猟犬の烙印を押すのでした。

老人は、自身残された僅かなずかな時間の中で、森に潜む3体の王者、熊、猪、大鷲と、独り決着をつけることを誓います。

 

 

この物語の魅力は、老人と隼さんの不思議な関係だと思います。

 

猟師と猟犬は、主人と忠実な部下、つまり明確な上下関係を築きますが、隼さんは老人の部下ではありません。老人が大好きで、危機が迫れば先んじてその芽を摘みに動きますが、気がのらない指示には明確に従いませんし、基本ソロ活動を重視しています。そういう意味でも、隼さんは「猟犬」ではなく、一匹の自立した「犬」であるというスタンスが貫かれています。

 

3体の王者を屠ることを決意した老人ですが、それぞれの怨敵との結末には、どれも隼さんが、直接的に、間接的に絡んでいます。

暗躍する隼さん。それを知らない老人が、「この犬、今日もほっつき歩きやがって。こっちは大変だったんだぞ。トホホ…」と落胆するという、まるで正体を隠し日常を守るヒーローのテンプレートのような展開に、微笑ましくも歯がゆい気持になること請け合いです。

 

こんな軽いノリで説明していますが、絶望的な環境で、だんだんいうことを聞かなくなる老体に鞭打ちながら、それでも猟師という生き方しか知らず、突き進むことしかできない老人の孤独な胸中

最強ゆえに孤独であり、仲間欲しさにキツネの親子と仲良くしようとする隼さんのいじらしさ

そんな一人と一匹のじれったくも愛しい関係と、厳しくも美しい自然の描写がほんとうにあざやかで、出会えてよかったな、と思える1冊となりました。

 

 

隼さんが奥羽軍に加わっていれば、確実に赤カブト討伐戦の決死隊のひとりになっていたでしょう。それだけの〝漢〟です、彼は。