怖い長方形

今は亡きサティのゲームセンター。

 

手前側からUFOキャッチャーやワニワニパニック、じゃんけんのゲーム(グーチョキパーのボタンを選び、マシンとじゃんけんする)、少し中にいくとアームでお菓子をとるやつ、アンパンマン号や新幹線といったの乗り物系と、対象年齢が低いものが配置されている。

更に奥へ進むと、年齢層の高いゲームがあらわれる。壁際を埋めるようにスロットマシンやドライブゲームがずらりと並ぶゾーンは、あまり人っ気がないし、人がいても大抵は覇気のないの男性なので、小学生のこどもには近寄りがたい。

唯一心やすらげるのは中央に鎮座するコインゲームゾーンだった。

コインをふらせる汽車が塔の上を周回している様子などは何度見ても飽きなかったし、たった1枚のコインが雪崩を起こす快感は格別で、コインを得るためにコインを溶かしまくっていた。

 

そんなコインゲームコーナー付近の両替機のはす向かい、やや奥まった位置にそれはあったと思う。

木製の公衆便所(トイレというより、便所。)を模した筐体で、はがれた板から血走った眼玉がのぞく様子が描かれている。そこから響く重低音と不気味な少女の声は、ゲームセンターの爆音のなかでも何故かはっきり鼓膜にこびりつき、幼い子どもたちを戦慄させた。

真っ暗な筐体のなかには2人ほどが座れるシートがあり、用意された怖い話(確か4~6種類ほど。少ない。)から好きなものを選択して聴くことができる。記憶は定かではないが、おそらく映画「学校の怪談」ブームを追うように設置されたと思われる。

 

当時はこのゲーム機が恐ろしくてならず、反面怖いもの見たさの精神で、ゲームセンターに立ち寄れば必ず1度はこのトイレの様子を覗きに行った。しかし、誰かがこの筐体に入っていた記憶はない。ゲーム機は大抵ひとりで奇妙なBGMや悲鳴を流しており、その人を寄せ付けぬ様が余計に恐ろしかった。

 

一度だけプレイしたことがある。好奇心と恐怖のはざまで相当躊躇し、誘ってくれた友人を長らく待たせ呆れられた。

選んだのはカエルの解剖の話だった。解剖の授業で一人の少女がヒートアップしていき、チェーンソーとかも使いだし、さすがに周りがドン引きする、という内容で、記憶がおぼろげなせいもあるが、どのあたりが怪談なのかよく分からない話だった。

 

いつの間にかゲーム機はなくなって、跡地にはプリクラコーナーができた。

 

あのゲーム機の情報を探しているが、広いネットの海を検索しても、詳細は謎のままである。